大家・不動産業者との手続き、敷金返還トラブルが起きた場合対処法

賃貸物件の退去時には決められた手続きに沿って契約解除をしなければなりません。

退居の際にトラブルとなりやすいのが敷金返還に関することです。以下に退去時の手続きと、敷金返還トラブルになった場合の対処法を紹介します。

退去する場合の大家・不動産業者との手続き

決められた退居の手続きの流れを無視して自分勝手に退居を決めてしまうと、支払わなくてすむはずの翌月分の家賃を請求されたり、違約金を支払わなければならなくなったりすることもあります。そこで、退居を伝える際の手続きの重要なポイントについて紹介します。

退居を伝えるタイミングは

転勤、結婚、就職、住み替えなど、引っ越し理由はそれぞれですが、仮に新居や引っ越し日がまだ決まっていなくても、近々のうちに引っ越す予定があるなら、退去することは前もって管理会社に伝えなければなりません。

入居契約をした際に取り交わした「賃貸借契約書」を確認してみてください。そこに、退居についての記述があるはずです。退居が決まったら、何日前にどこに連絡をすべきかという内容が書いてあります。たいていは30日前や1か月前に、管理会社に連絡をすることとなっているかと思います。

まれにフリーレント契約で入居した場合、2か月や3か月の猶予をもって伝えなければならない、と決められている場合もあります。伝える期限よりも前に退去しなければならないときは、残りの家賃や違約金を支払う義務が生じます。

このように、退居を申し出るタイミングは重要です。電話連絡で良い場合もありますが、解約通知を書面で用意しているところは、管理会社に出向き所定事項を記入しましょう。

退去日を限定できないときは

引っ越しは決まっても、まだ新居を内見中で正式にまだ決定していないことや、引っ越し業者が決まらないため日にちが確定できないこともあるでしょう。

そのため、解約通知の際には、だいたいいつ頃ということだけでも先に伝えておきましょう。大家さんも内装工事代や次の入居者の募集を依頼したり、いろいろと心づもりが必要なためです。ここで良い関係を築いたままでないと、敷金返還の際にトラブルとなることもあるため、最後まで気を抜かないことが肝心です。

退去の立会いまでにやるべきことは

引っ越しで室内の荷物を全て運び出して空になった状態で、管理会社の担当者と室内の状態について確認をします。これが退去時の立会いと呼ばれるものです。入居者が入居中に汚したところや壊したところがないか、キズあとやシミなどがないかを双方で確認し合います。場合によっては、大家さんや内装工事業者が同時に立ち会うこともあるようです。

もし落ちない汚れや修理が必要な箇所があれば、業者が清掃や工事に入ることになり、その料金を入居時に預けた敷金の中から差し引いて残金が返還されます。

というわけで、敷金の全額返還のためには引っ越しまでにできるだけ掃除を行い、入居時のようなきれいな状態で退去することが望ましいわけです。汚れが目立つ部分は自分の手で掃除できるならきれいにしておいたほうが良いでしょう。

敷金返還のポイント

民法の大改正により、原則敷金は全額返還であることが、衆参両議院で可決されました。とはいえ、国土交通省ではそれよりも前に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」という敷金返還トラブルを防止するルールブックのようなものがありましたので、内容はそれに沿ったものになります。

しかし、それがあったにも関わらず、依然として敷金トラブルは根絶とはならなかったため、このたびの決議が広く公になったという点で意義のあることだと思います。これからは不動産会社や大家さんの言いなりになるだけでなく、入居者側も納得のいかない修理代に対してはきちんと説明を求めるべきです。

原状回復義務について

不動産の賃貸契約は、契約書を見ても難しい専門用語が並びますが逐一理解をしなくても契約はできてしまうため、分からないままになっている人も多いようです。専門用語の一つに「原状回復」という言葉が出てきます。

原状は、元の状態のまま、以前の形、という意味です。回復とは、元の状態にすること、元どおりになること、という意味です。そのまま受け取ると入居した時の状態に戻すこと、というような意味合いですが、これは不動産賃貸においては間違いです。

本当の原状回復の意味は、入居者が誤って破損した設備や、故意による造作の変更、過失によるキズや汚れを修理や補修、清掃や工事などで回復するという意味です。畳や壁紙の日焼け、通常に生活をしていてできたフローリングの細かなキズなどは、原状回復の範囲に含まれていません。

この原状回復義務の定義が、不動産会社や大家さん、入居者それぞれの受け取り方が違うためにトラブルのもとになっています。

国交省ガイドラインを確認

国土交通省の公式ホームページから、誰でも無料で「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を閲覧できます。原状回復に関わるトラブルの事例や判例が数多く掲載されています。その中に、大家さんと入居者との原状回復費用の負担割合の記載もあり、どんなときに100%負担となるのか、もしくは双方で折半となるのかなど一覧すると傾向が分かります。

このガイドラインは平成10年にすでに作られ、その後何度かの改定を重ねて現在に至りますが、それでも原状回復に関するトラブルが全くなくなったわけではありません。というのも、ガイドライン自体はあくまでも目安とするための指針であり、その通りに守らなかったからと言って特に罰則などはなく、義務や法的強制力は一切ないからです。

また、このガイドラインが広く一般に普及していないことも要因でしょう。しかし、これからは民法で消費者側が守られる立場になります。

不当な原状回復費の請求には断固として立ち向かわなければなりません。そのためには、ガイドラインで似たような事例がないかどうかを確認してみてください。抜粋部分を印刷してマーカーなどで示し提示すると良いでしょう。

経過年数と減価償却について

「減価償却」は聞き慣れない人にとっては難しい言葉でしょう。会計処理で使われる減価償却と大体似たような意味で使われます。簡単に言うと、入居したときに新品のカーペットだったのが、退去時には食べ物をこぼした汚れが取れず目立つため交換が必要になったとします。

しかし、2年住んだ人と、10年住んだ人とでは、その負担割合も異なってきます。物はいつまでも新品のままではなく、年数が経過するごとにその物の価値も減少していく、という考え方です。カーペットだと6年を耐用年数とし、定価の額にかかわらず6年後の価値が1円になるように計算します。つまり、3年で買った値段の半分の価値になるという計算です。

10年も入居していたのなら、耐用年数を大幅に経過しているため、退去後のカーペット交換の際は、大家が全額負担で交換するのが然るべきということです。カーペットは元からあった設備なので、大家さんにも交換にかかる費用の応分を負担する義務があります。

相談先と訴訟手続きのやり方

不動産屋と大家、借主との間で敷金返還に関するトラブルがこじれ、両者間ではもはやどうにも解決できないときに注目を集めているのが少額訴訟です。今までは個人が裁判を起こすのはハードルが高く、不当な請求があってもあきらめて泣き寝入りする人も多かったようです。

しかし、少額訴訟制度の導入によりハードルはかなり低くなり、お金を取り戻すことに成功している人が増えています。今回は敷金返還トラブルの際にまず相談した方がよい窓口、また解決できない場合の少額訴訟について紹介します。

敷金トラブルの相談先

いざ敷金トラブルが起きたとき、不動産会社と内装業者と大家が結託しているような気がして、自分だけ孤立無援で形勢が不利だと感じられるのも無理はありません。そこで諦めて言いなりになってしまうことも、敷金トラブルが根絶しない原因の一つでしょう。

そんなときには、ぜひ無料の相談窓口を活用してください。住んでいる自治体の消費生活センターや、国民生活センター、各都道府県の不動産相談窓口などがあります。毎回悪質なやり方をする不動産会社なら、他の人からも相談があり、さまざまな情報があるかもしれません。

その際の解決に至った経緯などが記録されていれば、何かしらのヒントが得られることもあります。窓口の相談員は、今後の対応の助言をしてくれるところ、本人に変わって電話で交渉をしてくれるところ、不動産に強い弁護士の無料相談日を紹介してくれるところなど対応はさまざまに分かれますが、1人で悩んでいるなら、頼ってみることをおすすめします。

訴訟を起こすには

相手方に60万円以下の支払いを求める場合には、少額訴訟で裁判を起こすことができます。少額訴訟とは、原則1回の審理で解決を図る特別な訴訟手続きです。その場で調べられる証拠書類を用意することで、弁護士不要で即時解決できるため利用する人は増えています。

必要書類は、訴状、申立手数料、敷金精算書などの証拠書類です。訴状は、簡易裁判所に備え付けの定型用紙かホームページからダウンロードして使うことができます。敷金返還請求の書式例もあるため参考にすれば迷うことはないでしょう。また、裁判所の窓口に出向けば分からないことを教えてもらいながら、その場で記入することができます。

申立手数料も数千円以内でおさまり、弁護士への費用も不要です。安く、簡単に、その場で決着が付くので、個人でも泣き寝入りすることなく訴訟を起こせるということを覚えておくと良いでしょう。

今まで住んでいた賃貸を退居する際は、立つ鳥跡を濁さずで、手続きや挨拶、室内の清掃など、賃貸契約書に記載にあったとおりの手順や方法で進めましょう。今後は、民法の大改正により敷金は原則返還ということが法律で決められたため、そうトラブルになることもないかもしれませんが、最悪の場合には司法での解決を目指しましょう。