引っ越し業者のトラックに同乗して新居に移動できる?

引っ越し先までは業者と自分は別々に移動したため到着時間に差が出て時間の無駄だった、トラックに空席があるのに同乗を断られた、などの不満の声が上がることがあります。一方、引っ越し先まで乗せてくれたので最終的な打ち合わせができて良かった、色々な苦労話を聞くことができた、などという感謝の声もあるようです。

なぜこのような違いが生じるのでしょうか。今回は引っ越し業者のトラックに空席があっても同乗を断られるのはなぜなのか、その理由についてお答えします。

業者のトラックに同乗できるの?

引っ越し業者の業種は、一般貨物自動車運送業か貨物軽車輌運送業のいずれかで、どちらも「道路貨物運送業」になります。「貨物」という言葉が示す通り、依頼主の荷物を運んで対価を得る商売です。

一方、「人」を運んでよいのは「道路旅客運送業」で、バスやタクシーなど乗車距離に応じた料金を得ています。どちらも国に事業許可の申請をして厳しい審査や指導を経た上で、国土交通大臣から事業許可を得て正式に事業を営んでいます。

原則同乗できない

せっかく同じ場所に行くのだからちょっとぐらい乗せてくれてもいいだろう、と思うかもしれません。しかし、引っ越し業者は国に正式に届け出た貨物業であって旅客業ではないため、人を乗せて対価を得ることは禁止行為にあたります。

そもそもトラックは、人を安全に運ぶための設備が備わったバスやタクシーと根本的に座席の造りが違います。旅客業は万一の事故の際の手厚い保険に加入することが義務付けられています。引っ越し業者は引き受けた家財や建物に対する保険には入れますが、同乗した依頼主に対しての保険には加入することができません。

つまり何かの事故が起きた際は、荷物の補償はできても人に対する補償ができないため、安易に善意で同乗を引き受けるのは無責任になってしまいます。そのため、依頼主から同乗の要請があっても、断らざるを得ないことを理解してください。

例外で同乗できる場合もある

しかし、四角四面にどんな状況のときでも同乗を禁止しているわけではありません。引っ越し業者が守るべきルールが記載されている標準引越運送約款によると、同乗が認められているのは以下の様な場合です。

道案内が必要なとき

道がきちんと区画整理されていて何丁目何番地と分かりやすい住所なら、カーナビが最後まで案内してくれなくても勘を頼りに到着することはできるでしょう。しかし、大字◯◯◯◯番地などの住所では桁数の多い数字があちこちに飛ぶこともあり、非常に分かりにくいものです。

また、近くまで来ているのに工事中の迂回などでトラックが通れる幅の道が複雑なとき、玄関先からトラックの駐車位置まで離れていて分かりにくいときなど、依頼者が道案内をする名目で近距離に限りトラックに同乗することができます。

荷物の監視が必要なとき

荷物の盗難や荷崩れを監視する目的でなら同乗が認められています。軽貨物車両で荷物を運ぶ赤帽では、たいていは個人事業で1人で全ての作業を行うことが多く、引っ越しの場合は重たいものや大きいものの運搬を依頼主が手伝うことを条件に安くなっています。

その際に、近くならということで荷物の監視役という名目で助手席に乗せてくれることもあるようですが、高速道路を使う場合、中長距離の移動、他にバイトなどの手伝いを付ける場合は同乗を断っているところが多いです。

同乗できるサービスもある

同乗の言葉の意味合いとは多少異なりますが、アート引越センターでは、特殊車両に家族やペットが家財と一緒に乗って移動できるサービスを提供しています。

トラックというよりも大型バスに近い特別に作られた車両で、人が乗るための客室と荷物を積むための荷室に分かれています。車椅子利用者も快適に乗り降りできるように車椅子専用のパワーリフトを設置しており、客室には家族6人までの乗車スペースと大型犬などのペットも一緒に連れて行けるように大型のケージ設置スペースも設けられています。

引っ越し先まで快適に過ごせるように窓を大きくして光を取り入れたり、テレビを設置したりと、家庭のリビングをイメージしてくつろげるような雰囲気の内装です。

こんな豪華な特別車両ですが、車両利用の追加料金は一切かからず、通常の引っ越し料金のみで利用できます。しかし、全国規模でどこの営業所でも使えるほどの台数はなく、申し込めるエリアが限られています。

優先されるのは、車椅子利用者がいる家族の中距離までの引っ越しです。車椅子利用の家族がいて家族人数が多いために全員が自家用車で一台でまとまって移動できないようなときは、早めに申し込んでみると良いでしょう。

新居に移動する際の注意点

引っ越し業者のトラックに同乗するつもりで引っ越し先までの移動方法をまったく考えていなかったという人もまれにいます。お盆や年末年始の帰省客や旅行客、引っ越しが混み合う年度末などは、駅や空港も混雑しなかなか切符が取れないものです。あらかじめチケットの手配が必要な場合は、確実に入手しておきましょう。

業者を待たせないように

引っ越しトラックよりも先に新居に着くように努力しなければいけません。特に長距離の引っ越しの場合は、道路の渋滞があるとなかなか到着時間の読みが難しいものです。これだけ渋滞しているのだからトラックもきっと遅れてくるだろうとのんきに構えていると、実は新居前で何時間も待たせてしまったということもあります。

その際は作業を勝手に進めるわけにいかず待つしかないので、待たせた時間分の駐車留置料が生じてしまいます。そんな様子を近所に見られたら、今度引っ越してくる人は非常識という変なレッテルを貼られてしまうことにもなりかねません。

近距離の引っ越しにしても、公共交通機関で移動しなければならないときは、時刻表を調べておき、余裕をもって移動しましょう。お昼を挟む引っ越しでは、業者のスタッフもお昼休憩は取りますが、多くの場合時間調整も兼ねているため、本当に急いで次に向かわなければならないときは、トラックの中で移動しながら軽食ですませることもあります。

お昼休憩は一時間ぐらい取るだろうと勝手な読みで自分たちはのんびりランチなどということのないように、しっかりと今後の動向を確認しておきましょう。予定に狂いが生じるようなら早めに現場リーダーに連絡してください。

新居の鍵の用意

これから住むことになる新居と不動産屋が近ければ、道中に立ち寄って新居の鍵を受け取ることができます。しかし、営業時間外になってしまいそうなときは、あらかじめどのようにして鍵を受け取るのかきちんと確認をしておかないと大変な目に遭います。

途中で立ち寄るつもりなら、必ず引っ越し業者に伝えて了承を得ておくようにしましょう。あとによその引っ越しがつかえている場合は、少しの遅れでも待たせてしまうことは気まずいものです。作業を急ぐあまりに多少荷物を手荒に扱うことがあっても、自分に非があれば苦情を言いたくても言えないでしょう。

できれば身内や信頼のおける知人に新居に先に着いていてもらい、鍵を開けて引っ越しトラックを受け入れてもらえると良いですね。そのためにはダンボールに部屋の行き先をハッキリと書く、新居の家具のレイアウトを完成させておく、などの事前準備が欠かせません。

もしどうしても誰にも頼めないような場合は、賃貸の管理会社か大家さんにドアの鍵を開けておいてもらえないか頼んでみましょう。

まとめ

引っ越し業者のトラックに乗って、荷物と一緒に自分まで運んでもらうことはできません。人だけではなく、動植物や危険物や貴重品なども運んでもらえません。それは、国のルールで決められていますし、引っ越し業者が提示する約款にも記載されています。

引っ越し先までの移動方法を事前によく計画しておきましょう。引っ越し先で長い間トラックを待たせないために、家族がふた手に分かれて時間差で移動するなどの対策も必要です。